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検査値異常の判断法

基準範囲について[ラボ NO.450(2016.7.発行)より]

最近、「共用基準範囲」とか「基準範囲」という言葉を耳にしますが、これは「正常値」とは異なるのですか。

「基準範囲」は「正常値」と混同されることも多いので、正確に知っておいてください。
「基準範囲」は基準個体から得た基準値を用いて、統計的に求めた基準分布の中心部95%の基準値が含まれる範囲です(図)。

 この「基準個体」とは、“健常者と思われるヒト”から一定の基準〔既往歴に悪性腫瘍や慢性(肝・腎)疾患などのある者、薬物(高血圧、糖尿病、脂質異常症など治療薬)の常用がある者、MBI が25以上喫煙歴がある、1合/日以上の飲酒があるなど〕で一次除外した残りの“真の健常者”ともいえるヒトです。そして、一次除外した基準値からさらに潜在異常値除去法により、潜在する病態での基準値を除去することで基準範囲設定値を最適化します。
この潜在異常値除去法は、基本となる検査(総蛋白、アルブミン、尿素窒素、血糖、AST・ALTなどの酵素、コレステロールなどの脂質)が異常値である個体を除外する方法です。なお、このように最適化した基準個体からの検査値の多くは正規分布(図のような左右対称の釣鐘状)ではないので、Box-Coxべき乗変換法により正規分布として、基準範囲を求めます。

 このように、「基準範囲」は基準個体から算出された統計値ですので、「正常値」ではありません。健常な基準個体での検査値の範囲ですので、検査値の“ものさし”と考えてください。また、統計値ですから、上下で合計5%(図の黒色部)は健常基準個体でも異常値となります。そして、臨床判断値と呼ばれる診断閾値(カットオフ値)、治療閾値、予防医学的閾値の3 つとは異なります。とくに脂質(コレステロールやトリグリセリド)や糖質(血糖やHbA1c)は、予防医学的閾値が関連学会から提唱されています(LDLコレステロールは140mg/dL、トリグリセリドが150mg/dL未満とするのがよい)が、これらとも異なります。

 現在、人間ドック学会や日本臨床検査標準協議会(JCCLS)から提唱されている「共用基準範囲」は、このようにして求められた値です。ただし、「基準範囲」が「正常値」と混同されることも多いので、とくに予防医学的閾値はこのことを明記して、「共用基準範囲」の表に記載することも考えなくてはいけないかもしれません。

●日本臨床検査専門医会:種々の検査を通して診断や治療に役立つ検査結果と関連する情報を臨床医に提供する臨床検査医の職能団体です。