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見逃せない検査異常

コリンエステラーゼ(ChE)[ラボ NO.539(2023.12.発行)より]

コリンエステラーゼとは何ですか?

コリンエステラーゼ(ChE)という血液検査項目はあまり聞き慣れないかもしれません。ChEは、コリンエステルという成分をコリンと有機酸に分解する酵素です。ChEには、神経細胞から他の細胞へ情報伝達を行うための化学物質(神経伝達物質)であるアセチルコリンを分解する真性ChEと、生理作用は明らかではありませんが、神経や筋肉、脂質代謝に関与していると考えられているアシルコリンを分解する偽性ChEの2種類があります。血液中で測定されるChEは後者です。
ChEは肝臓で作られるため、ChEは肝臓の合成能を評価する項目の1つです。基準範囲は男性で240~486U/L、女性で201~421U/L で、主にこれより低値を示す場合に臨床的意義が大きくなります。

コリンエステラーゼと肝臓の病態との 関係を教えてください。

肝臓は、ウイルス、薬の影響、自己免疫などさまざまな原因により障害を受けて肝細胞が壊れると、AST(Aspartatetransaminase:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)・ALT(Alanine transaminase:アラニンアミノトランスフェラーゼ)といった肝臓の異常を表す項目が上昇します。肝臓は、蛋白や脂質などの体にとって最も大切な成分の『合成』や、体に害のある成分の『解毒作用』など、非常に大切な働きをいくつも担っています。
このような大切な機能は、肝臓の細胞が少し壊れ、ASTやALTが多少上昇したくらいでは失われません。肝臓の細胞が急激に強く障害される劇症肝炎や、肝炎が進行し肝細胞が不可逆性に障害される肝硬変になってはじめて、肝臓の大事な機能が失われていきます。そうなると、ChE、アルブミン、コレステロールなどの合成能も低下してくるため、血液中でこれらは低下します。

コリンエステラーゼと栄養の関係を 教えてください。

ChE はアルブミンやコレステロールとともに栄養状態を示す指標にもなり、低栄養状態、重症感染症や悪性腫瘍でも低値となります。
逆に、過栄養状態ではChEの合成は亢進し、脂肪肝や肥満、糖尿病などでChEは高値になります。

コリンエステラーゼが極端に 低値を示す場合はどのような病態が考えられますか?

農薬、殺虫剤、サリンなどに含まれる有機リンは、ChE 活性を失活させる働きがあります。そのため、肝障害以外で極端に ChE が低値を示す場合には、有機リン中毒を疑います。
緊急で処置をしないと生命の危険がある値をパニック値といいますが、日本臨床検査医学会では ChE ≦ 20 U/L をパニック値として提唱しています。
その他、先天的に ChE 活性が極端に低値となる遺伝性コリンエステラーゼ欠損症があります。このような患者さんの手術時に麻酔薬 ( サクシニルコリン ) を投与すると、これをうまく分解できず、無呼吸が遷延してしまいます。そのため手術前に血清ChE 値を確認しておくことも大切です。

●日本臨床検査専門医会:種々の検査を通して診断や治療に役立つ検査結果と関連する情報を臨床医に提供する臨床検査医の職能団体です。