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高齢者の検査値を考える際の問題点として、異常かどうかを判断する尺度設定が難しいことがあります。臨床検査値は一般的に基準範囲・基準値と比較して、異常かどうかを判定します。基準範囲は、いろいろな条件を設定して選び出した健康人を「 基準個体」群とし、 通常はこの群の95%が含まれる検査値の範囲として設定されます。しかし高齢者の場合、この基準個体の設定自体が難しいのです。
高齢者には、年齢に見合わないほどはつらつとして元気な人もいれば、とくに病気はないけれどかなり老化の進んだ人もいます。基準範囲を算出するには一定数の基準個体が必要ですが、高齢者の場合、選定条件を厳しくし、非常に元気な人だけにしてしまうと、該当者が少なくなってしまい、十分な数の基準個体が得られません。しかし選定条件を緩くすると、老化によって身体機能がかなり低下した人や、潜在的な病気を有する人が含まれてしまい、基準範囲は広くなります(図参照)。
そういうわけで、 高齢者については確立した基準範囲はなく、 どのような基準範囲を用いるかによって、異常になったり、ならなかったりする可能性があります。
また高齢者では、一部の検査値で変化がみられることも知られています。これを加齢変動といいます。
一般的な基準範囲は、高齢者を除く成人を対象として設定されています。そのためこの基準範囲を使って判定すると、高齢者の検査値は異常を呈するものが多くなってしまいます。しかしこの異常は、病気によって生じたものだけでなく、正常な老化現象の過程で生じたものかもしれません。この点は注意が必要です。
先ごろ、人間ドック学会が高齢者の検査値についても基準範囲を設定しましたが、今後はこれが有用な尺度となるかもしれません。
加齢変動には年齢とともに高くなるものと、低くなるものがあります。もちろんほとんど変化しない検査もたくさんあります。
高齢者で上昇する検査値としては、クレアチニンや尿素窒素があります。LD(LDH)も年齢とともに上昇しますが、この傾向は女性のほうがより明確です。
高齢者で低下する検査値には、赤血球数やヘモグロビン濃度、血小板数、総コレステロール値、ALT(GPT)などがあります。
●日本臨床検査専門医会:種々の検査を通して診断や治療に役立つ検査結果と関連する情報を臨床医に提供する臨床検査医の職能団体です。