臨床検査医学への提言 第四回 本田 孝行 先生 | 一般社団法人日本臨床検査専門医会|臨床検査医になるために
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臨床検査医学への提言

臨床検査医学への提言 第四回 本田 孝行 先生

信州大学名誉教授
本田 孝行

1.はじめに

私は、呼吸器内科医を13年間経験してから臨床検査医学を始めました。最初に感じたことは、臨床検査医は何をするのか、identity は何かでした。臨床検査医学に携わった27年間、その答えを追い求めてきました。

2.経歴を含めたプロローグ

私の経歴は少し変わっています。呼吸器内科に入局し、自分で気管支鏡検体の病理診断をしたくなり、卒後3年目に臨床検査部に院内留学しました。その後10年間、呼吸器内科医+呼吸器病理医の2足のわらじを履いていました。同時に2つ専門領域を行うことは時間的に大変ですが、面白さは2倍以上になります。1つだと直線にしかなりませんが、2つ行うと面になるし、3つだと立体になります。4つならそれに時間軸が加わるように思います。しかし、小さなサイコロのような立体では価値がなく、それぞれの専門家と対等に話ができる程度にはならなければなりません。2つの専門領域はお互いに補い合い、医師としての人生が2倍以上楽しくなります。
総論と各論どっちを先に教えるのがよいか迷います。各論を経験する過程で、理解を深めるために総論が作られたと考えると、各論が先で総論は後です。各論なしで総論から始めるのは実体のない理論を学習するので学生にとって退屈です。そこで、教科書的総論はe-learningに任せて、症例のDiscussionを主体とする授業に切り替えたところ、臨床検査医学の評価が4年生で2位か3位になりました。学生に教えながら、各論を経験しながら自分で総論を構築するのが医学だと思うようになりました。特に教科書的総論では、重要性(重み)の違いは理解できません。経験しなければ成長できないし、経験した各論を自分なりの総論に構築できなければ名医にはなれないのです。
現在の医学は診断学に偏り過ぎています。診断により治療が決まるので合理的ですが、患者の病態を考える機会が少なくなっています。特にスコア診断には馴染めません。点数の増減がどのように病態に関与しているか理解できません。Deep Learningに似て入口と出口だけなので、どのような過程で判断したかわかりません。病態を理解すれば診断できるという考え方はもう古いのでしょうか。病態を正しく認識すれば、当たらずとも遠からずの診断領域に達することができ、それだけで治療が可能な場合も少なくないと思います。医者はピンポイント診断を求めて大きな間違いを犯すより、治療が違わないなら広めの診断でよいと思います。

3.専門性とは何か

専門性とは何かを考えてみます。呼吸器内科医は、呼吸器疾患の診断と治療に関して他の分野の医師に比べ優れています。症例を多く経験し、呼吸器疾患に関する考え方(自分なりの総論)を確立しているからです。キーワードは、多くの経験とそれに基づく自分なりの総論形成です。この総論の優劣により、優れた専門医、普通の専門医、だめな専門医に分かれます。いくら多くを経験しても名医になれない理由です。臨床検査医は治療を経験できないので、診断分野で専門性を発揮しなければなりません。しかし、呼吸器疾患の診断分野において、どう頑張っても臨床検査医が呼吸器内科医に勝る評価は得られません。圧倒的に経験が不足するからです。当該領域の専門医には及ばないが全般的な診断能力は優れていると訴えても、説得力に欠けます。再び、臨床検査医の専門性は何かという課題に遭遇します。

4.臨床検査医の専門性

私は、診断分野は診断学と病態学に分かれると考えています。治療分野でも病態学は必要ですが十分に活用されていません。診断学は入口と出口の関係を見つけることに終始し、病態への関心は少なくなっています。臨床検査医を病態学の専門家と考えると、そのidentityが少し明確になります。臨床検査医は総合診療医に似ています。総合診療医が他の臨床医に比べ優れている点は、現病歴聴取と診察にて患者の病態を探ることです。臨床検査医は、現病歴聴取と診察に代わる手段としてルーチン検査(基本的検査)が使えます。
私が、Reversed Clinico-pathological Conference (RCPC)に力を入れ、自分なりの総論(信州大学方式)を構築した理由です。呼吸器内科医+呼吸器病理医の時、ルーチン検査で患者の病態を検討する発想はなく、検査値が変動する意味を真剣に考えたこともありませんでした。ただ、病態を探るには、ルーチン検査は驚くほどよくできた検査群です。前任の勝山努名誉教授からRCPCの授業を行えと言われ、河合忠先生の「異常値の出るメカニズム、第4版」を何度も読んで授業に臨み、ポリクリでは熊坂一成先生が編集された「Reversed C.P.Cによる臨床検査データ読み方トレーニング」に掲載されているデータを、解説を見ないで学生とdiscussionしました。RCPCを依頼されると、検査データだけもらい会場の方々とdiscussionしました。今でも思い出すのは、感染性心内膜炎の症例です。ルーチン検査データで「細菌感染症はない、消化管出血がある」と断定しましたが、剖検診断と大きく異なっていました。経験が少なく、当時の私の総論では診断できませんでした。

5.臨床検査医共通のidentity

すべての臨床検査医ができることが臨床検査医のidentityです。私は、ルーチン検査で患者の病態を把握し、臨床医の診断および治療を補うことだと思っています。放射線科医の画像診断と同じくらい、臨床検査医も貢献できるはずです。そして、結果として患者の利益および医療コスト削減に繋がると思います。そのためには、臨床検査医は専門を2つ持たなければなりません。臨床検査学の1分野とルーチン検査による病態解析学です。先にも述べましたように、2つの専門分野を持つと医師としての人生がさらに楽しくなります。私は今まで述べたものに加えて、感染管理、病院経営を行う機会も与えてもらいました。感染管理では、院内感染対策だけでは満足できずShinshu Infection Control Surveillance System (SICSS)を参加病院の会費で構築し、長野県の耐性菌監視と対策支援チームの結成を行いました。10年経過しますが、一般病床の85%以上をカバーし全国でも有数の規模になっています。専門が多くなると、個々のクオリティが低下すると思われるかもしれませんが、3つまでは大丈夫です。逆にクオリティは上昇します。同時に3つ行っていると、無意味な時間が少なくなり、効率よい人生も送れます。最近、何年ぶりかに外来に出たのですが、胸部CTをみると病理像が浮かび、ルーチン検査で病態を探れるメリットは健在でした。まだまだ、普通の呼吸器内科医には負けないと思ってしまいました。病理と臨床検査学を学んだからです。

終わりに

私の思い描く臨床検査医像を示しましょう。外勤病院で入院患者の検査データをみていますが、コメントをしたくなる患者が3~4割います。200~300床の病院なら、ひとりの臨床検査医と数人の検査技師で入院患者すべてのルーチン検査管理(病態管理)が可能だと思います。聖隷浜松病院の米川修先生が行われているようなAIを導入すれば、効率化も図れます。臨床検査医が全入院患者の診断および経過観察に積極的に加わった場合、患者の予後改善および医療コスト削減にどの程度貢献できるか、臨床検査医の挑戦になります。すぐに始めたいのですが、もう何年か病院経営に携わる機会をいただき、この試みはしばらくお預けになります。いつの日か報告できればと思いますが、自分の健康が心配な年頃になっています。「少年老い易く学成り難し」ですが、「老人はもっと老い易くもっと学成り難し」という切実な問題が浮上しています。

JACLaP NEWS 141号 2022年2月掲載

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