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臨床検査医の方へ

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臨床検査医学への提言

臨床検査医学への提言 第一回 登 勉 先生

小山田記念温泉病院
日本臨床検査専門医会名誉会員
登 勉

2020年はCOVID-19に明け暮れた1年であったが、臨床検査及び臨床検査医学の課題が改めて浮き彫りになったと感じている。昨年7月、JACLaP NEWS編集主幹の後藤和人先生から「臨床検査医学への提言」という仮題での執筆依頼をいただいたので、COVID-19を通して感じたことを臨床検査、臨床検査専門医、そして臨床検査医学という3つの視点からまとめてみたい。

1.臨床検査

過去に何度も「時代が変わっても臨床検査は存続するが、関係する職種や臨床検査専門医が必要とされるかはわからない」と述べてきた。昨年2月3日に横浜港で検疫を受けたダイアモンド・プリンセス号事例では、わが国で実施可能なSARS-CoV-2検査件数の少なさがメディアで大きく取り上げられた。市中感染として拡大するにつれて、「必要な時に検査が受けられない」といった批判が検査対象を決める基準や実施体制に向けられていった。その後、行政検査に加えて臨床検査として保険診療の下で検査を実施する体制が整備されてきている。
今回のコロナ禍と1918年に世界的流行となったインフルエンザ(1918 Flu Pandemic、スペイン風邪)は、有効な治療薬がなく、ワクチンもない点で類似する。しかしながら、世紀を隔てて起こった2つのパンデミックの大きな違いは、診断キットの有無である。連日メディアではPCR検査実施件数が増えないという指摘とともに、感度、特異度、偽陽性、偽陰性、そして陽性予測値といった臨床検査に関連する用語が紹介され、臨床検査への関心が高まったことは事実である。しかしながら、検体採取条件(採取部位や発症後の日数)、検査の検出限界、検査前確率(有病率)などを考慮せずに、「PCR検査は、患者の7割程度が陽性になるだけで絶対ではない」と結論付けるような論調になっている。臨床検査に関係する学術団体や業界団体は、臨床検査として提供されるまでの大きな流れと臨床検査の基礎的知識を様々な機会を通じて国民に啓蒙する必要があると考える。

2.臨床検査専門医

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針」の 第1版が2020年10月2日に発行され、第2版が同年11月2日に発行された。病原体検査の指針検討委員会には厚生労働省健康局結核感染症課に加えて12名の委員が参加しているが、委員の所属学会・団体に日本臨床検査医学会や日本臨床検査専門医会はなく、日本臨床検査衛生検査技師会から委員が参加しているのみである。所属部門が検査部の委員は参加しているので、指針には臨床検査からの意見が反映されていると思うが、臨床検査専門医を認定している学会がSARS-CoV-2検査の指針検討委員会に参加を求められないことを憂慮する。
臨床検査専門医会では過去にも法人化について議論されたが、〆谷直人会長が法人化検討ワーキンググループを新たに設置し2~3年かけて検討することになった。2020年度第2回常任幹事会議事録には「臨床検査振興協議会では、構成団体で専門医会だけが任意団体なので、一般社団法人化も考えていきたい」という〆谷会長の発言が紹介されている。法人化の目的として「広告が可能な専門性資格」を認定する団体の基準を満たすことを加えていただきたい。そして、「会員数が1000人以上であること、かつ、その8割以上が当該認定に係る医療従事者であること」を満たすべく、臨床検査専門医の育成に日本臨床検査医学会と協力して取組んでいただきたい。

3.臨床検査医学

臨床検査医学という学問分野は臨床検査医学教育と研究からなると考えるが、大学医学部における臨床検査医学講座は大変厳しい環境に置かれていることは本会教育研修委員会が2017年に実施した「医学部における臨床検査医学教育の実態調査」で明らかになっている。すなわち、講座が存在しているのは回答のあった66医学部のうち39(59%)のみであった。残りは、検査部や他の研究分野に改組されていた。臨床検査医学教育を実施する体制の基本が崩れてきていると言わざるを得ない。講座の数のみでなく、教員の定員数にも変化があり、研究に割ける時間も限定されている。
現在、わが国でも新型コロナウイルス変異株が検出され、SARS-CoV-2 PCR検査に加えて変異株を診断する検査が今後重要になると予想される。もし、変異株の検査法の提案を募集された場合、どれくらいの応募があるだろうか?臨床検査技師、検査薬企業、そして衛生検査所と連携し、臨床検査医学の研究・開発に貢献できる体制整備の重要性を痛感する。

おわりに
河合忠先生は、今後の臨床検査医学講座や検査部のあるべき姿について、「検査部教授では積極的に卒前・卒後教育はできないので、検査部と連携し臨床検査医学講座の充実に努力するとともに、他の診療科と共同で教育、研究を行う」ことが重要であると述べておられる(機器・試薬 2019; vol.42: 55~57.)。「臨床検査医学への提言」という大きなテーマに正解はないと自身に言い訳しつつ、僻見との誹りを恐れずCOVID-19に関連付けて述べた。

JACLaP NEWS 138号 2021年2月掲載

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